2016年のUXデザイナー - CEM (Customer Experience Management) 推進チームを目指して

「UX」という言葉が私達の周りで盛り上がりを見せるようになってからけっこうな時間が経ちました。UXを学ぶ人も多いし、日々色々なことがプロジェクト現場で試されているし、導入が進んだり、課題が見えてきているところも感じます。

その課題のひとつに、UXに一生懸命取り組んでもサービスやインターフェイス単体の最適化にとどまってしまう、ということがあるのではないでしょうか。ユーザー調査をして、ペルソナを作って、ジャーニーマップ描いて、、、でもアウトプットは画面の中の話だけ。

ところが、時代はサービス・プロダクト飽和状態。次の競合優位性はいかにユーザーのことを考えているか。

ユーザー視点で考えると、画面にたどり着く前から、サービスとの接点は色々とあるはずですし、単体の接点や単体のプロジェクト、あるいは開発チームだけでUXの話をするのは物足りなくなってきているのではないかと思います。では次のステップとして、私達UXデザイナーは何を考えるべきなのでしょうか。

2016年、UXがビジネス全体へ

次のステップは画面の中を抜けだして、ユーザー接点全てに影響していくように広がっていくでしょう。ビジネス戦略の中で、ユーザーエクスペリエンスの向上が大きな役割を占めていくということです。

ここ数年、米国の大手金融機関Capital Oneが、UXの名門のAdaptive Path社を買収したり、世界でビジネスを展開するGEがCXO(Chief Experience Officer)の名を持つ役員をおいたりといった動きにも、UXがビジネス全体でいかに重要になってきているかが現れていることを感じます。AppleGoogleがユーザーエクスペリエンスを第一に成長してきたという事例も大きいそうです。

本当にユーザーエクスペリエンスの向上が売上に貢献するのかという議論はつきものですが、Forresterの調査によると、10%のカスタマー・エクスペリエンスの向上が、10億ドル以上の影響力を持つという結果も出ているようです。※clarabridge.comより

このような調査結果を見ても、ユーザーエクスペリエンスがビジネス戦略に占める役割が大きくなっていると信じてなりません。

ビジネスや経営にユーザーエクスペリエンスを持ってくるとして、気になるのがどのようにエクスペリエンスの向上をマネージメントしていくのかということです。顧客のためのサービスで顧客が喜ぶ⇒対価を得るという構造の中で、売上とは異なる、「顧客が喜ぶ」部分を収益の先行指標として見る方法がないのか。そのための指標として、Customer Experienceをマネージメントする。「CEM」が注目を集めています。

CEM(Customer Experience Management)とは

Wikipediaでは以下のように定義されています。

Customer experience management (CEM or CXM) is the process that companies use to oversee and track all interactions with a customer during the duration of their relationship. This involves the strategy of building around the needs of individual customers.

 CEMとは顧客と企業との関係において、全ての接点を監督するプロセスのこととなっています。

ポストCS(Customer Satisfaction)、CRM(Cutomer Relationship Management)とも言われ、急速に注目を浴びているようです。ソシオメディア UX戦略フォーラム 2015 Fallにてビービットの遠藤社長のプレゼンを聞いて、これは、と思いました。

CSが顧客の不満の声を発端とする点での顧客満足度向上を目指し、CRMがサービス単体での最適化を行いリピート購入や単価向上を目指すのに対して、CEMは顧客の感じる価値を最適化し、ロイヤルカスタマーの創出を目指します。

ロイヤルカスタマーとは、あなたの製品を推奨してくれる人です。推奨してくれるということは長期的な利益に貢献してくれるということ。リピート購入や単価向上は短期的な売上成果にしかつながらないという主張があります。その点ロイヤルカスタマーは、何があっても競合の製品になびきません。ロイヤルカスタマーを重要視する傾向は、以前からあったものではありますが、「指標として測り、きちんとマネージメントする」という考えは比較的新しいのではないでしょうか。

顧客のロイヤリティを測ることで、収益の先行指標として観測することができるようになるのです。今のところは主にNPS、ネットプロモータースコアで測るとされています。

アメリカの東海岸を中心に展開するTD Bankという銀行では「Customer Wow Index」、顧客が「Wow」と言った回数を経営の指標として見ており、従業員の人事評価にも「Wow Index」が盛り込まれていると聞きました。実際に、利益が10年間で10倍以上増えたとか。TD Bankのように、エクスペリエンスを指標として管理していく例はこれからも増えていくと思います。

2016年にUXの専門家が求められる役割

このような活動には、様々な役割・職種の参加が必要不可欠です。つまり、UXの知識や手法が骨の髄までチームに浸透している必要があります。UXデザイナー、UXエンジニア、UXマーケター、UXアナリスト、UXディレクター・・・などなど。

その中でUXの専門家に求められる役割とは、顧客のエクスペリエンス向上が、いかにビジネスに繋がるかを理解し、そして啓蒙していく。常にエクスペリエンス向上に取り組むチームや組織づくりを担っていくということが大事な役割になっていくように思います。UXデザイナーからUXリーダーへ。それも、上から言ったことを従わせる形ではなく、チームの力を引き出すフォロワーシップ。2016年大きな進化が求められる気がします。

 

 

このエントリーは「UX Tokyo Advent Calendar 2015」の10日目の投稿です。